クリスマス早朝の清水寺へ行きました。もちろん、ひとりで。
クリスマス早朝の清水寺へ行ってきました。もちろん、ひとりで。
亡き母からのご縁がふかく、私は三十余年の間、毎朝お参りをさせて頂いております。朝早よう起
きて、祇園さんから二年坂、三年坂、その角の七味屋さんのとこの石段あがって、まだ起きといやし
まへん土産もんのお店のならぶ清水坂をのぼりきると、清水さんの大石段、楼門に、三重の塔を霧
の中に見上げますともう、心のふるさとにきた思いです。音羽の滝のお不動さんに、手をあわして拝
がみ、お水を杓でいただき口に含むときのさわやかさ、いっぺんにゆんべからの気しょくの悪かった
ことも拭うて下さるようにすうっと消え、しゃんとなって八十三段の石段をのぼり、観音さまへ、きんの
(昨日)一日の御礼を申し、今日もまた無事なように願う心のあたたかさは、いいようのない嬉しいも
のでございます。お堂の前の舞台にでますと、晴れた日の春は、紫のうす霧に、西の本願寺さんの
屋根が、浄土にわたる舟のように浮んで見えまして思わず手を合わします。
(古寺巡礼 京都 月報24 清水寺 淡交社 1978 「清水さん」 増田好)
30年以上前の小冊子に描かれた、信仰の対象としての清水寺。
この30年の間にあったバブルや世界遺産認定などが、清水寺とその周辺をどう変えたのか。
生活レベルの信仰はどう変わったのか、あるいは変わってないのか。
そのあたりを確かめるため早朝の参拝を敢行した、というのは、嘘です。
イブに泊まった宿があまりに寒過ぎて寝てられず、運動のために外出しただけです。
が、そこで目にした光景は引用文まんまの世界、清水寺のもうひとつ顔、あるいは真の顔でした。
イブに泊まったPHいずみハウス、空調は廊下のみ。部屋には布団のみ。激寒。
寝てられません。スパークリングワイン一本開けたら寝れるかと思いましたが、寝てられません。
そのまま朝方になったので、起きてどっか行こうと考え、清水寺が6時に開くことを思い出しました。
というわけで歩いてる、午前5時半の東山五条。バスはもちろん、営業前。
泉涌寺のいずみハウスからここまで、徒歩で30分くらいでしょうか。
ワインが逆流しそうにになるのを堪えながら登る、夜明け前の清水坂。
当然人は少ないですが、全く無人でもないあたりは、さすがキングの貫禄というところでしょうか。
午前5時50分頃に着きましたが、フライング開門はありませんでした。
坂を登ってたのは、物好きの観光客などではなく、地元の爺ちゃん婆ちゃん。
完全普段着のお年寄りたちが、道端のお地蔵さんに経を唱えながら清水寺へ向かう。
ちょっと見たのことのない光景です。あ、もちろん、参道の土産物屋は一切開いてませんよ。
開門は厳密に、6時。それまでは、無料区域へも入れません。
地元ボランティアのおじさんたちが警備に立ち、顔見知りの爺ちゃん婆ちゃんと世間話したり
見慣れない顔の私に「開くのは6時です」と言ったりしています。
で、6時。「どうそ」とガードを解き、自転車で家路につくボランティアを見送りながら、入寺です。
まずは仁王門を抜けて、しばし夜景を独り占め。
京の町はいまだ、闇の中。
姦淫を以って主の生誕を祝したのち、豚の眠りを貪る輩を、天上より見下します。
爺ちゃん婆ちゃんは音羽の滝か奥の院へ行ったようで、三重塔近辺は異常なまでに無人状態。
観光客がいなくてせいせいするかといえば、むしろただ単に、広過ぎ&怖過ぎ。
参拝券は、券売所ではなく、轟門の奥の受付で購入します。
世俗から神聖なる本堂を区切る轟橋・梟の手水鉢も
いつもは人だらけで素通りしがちですが、今回はじっくりとお清めさせていただきましょう。
完全に単なる夜状態の、本堂。
その中で不思議な存在感を放つのは、貫主・森清範により揮毫された「今年の漢字」、『暑』。
舞台も当然、ヒリヒリするほど無人です。
わけのわからん緊張感が漂ってて、何というか、酒が抜けます。
と同時に、変な寂寞感がこみ上げてきて、全裸で踊ってみたくもなりますが(阿呆)。
はるか遠くに見える京都タワーの灯、無人の舞台、そして今年の漢字「暑」。
こうして見ると、ちょっと唖然とします。俗さ加減にではなく、その逆。
写真では全然伝わりませんが、俗まみれであるが故の聖性みたいなものを、強く感じます。
どれだけ観光客になぶられても消耗せず、むしろ邪気を吸収し聖化してしまう力が、
清水寺にはあるのでしょうか。
奥の院へ移動すると、やはり好事魔多し、先客がいました。
といっても、ちゃんとしたカメラを持ってたので、撮影予定を立ててやってきた人なんでしょう。
宿の部屋が寒過ぎて飛び出してきた、なんてことはないはずです。
わきでは、一緒に坂を上ってきた爺ちゃん婆ちゃんたちが、ラジオ体操をしてました。
もう一度、舞台から。西本願寺はわからないけど、京都タワーが消灯したのは見えます。
ちなみに引用文の増田さんとは、「先斗町のおたかさん」こと小料理屋『ますだ』の先代女将。
「先斗町のお狸さん」の傍の店。というか、お狸さんはこのおたかさんが祀ったもの。
彼女を慕い、司馬遼太郎からサルトル&ボーボワールまでやってきたそうです。
真っ暗なだけの音羽の滝を通り過ぎ、戻ってきた仁王門前。
すっかり、夜が明けました。下の方からチラホラと、観光客の姿も見え始めてます。
清水寺はここから、観光キングとしての清水寺の顔になるというわけです。
確かに朝早く起きるのは、つらい。
でも、そのつらさを超える価値がこの時間の清水寺にはあると、私は思います。
ベタ過ぎる観光地でありながら、地元の人間に普通に愛されてる姿は、ちょっと感動的です。
また、清水寺を純粋に寺としてお参りするには、この時間に行くしかないのも、確かであります。
客層は限りなく無人に近いですが、
中高年グループ、2~3組。バラけてるので、詳細不明。
一組はあんまり写真を撮ってなかったから、観光客かどうかはわかりません。残りは多分観光客。
あとは、単独男カメラマン、一人。
そんな早朝の清水寺。
好きな人と来たら、より清水寺なんでしょう。
でも、ひとりで来ても、清水寺です。
【ひとりに向いてる度】
★★★★★
ヘヴン。
清水寺
京都府京都市東山区清水1-294
6:00~18:00
京阪電車・清水五条駅下車 徒歩25分
京都市営バス「清水道」及び京阪バス「五条坂」
下車徒歩約15分
公式サイト 音羽山 清水寺
wikipedia 清水寺