大覚寺の観月の夕べに行ってきました。もちろん、ひとりで。
中国より伝わった「観月」が、貴族の間で流行った平安時代。
当時の雅人たちは、中秋の名月を直接見ず、杯や池に月を映して楽しんでたんだとか。
都のはずれにある嵯峨野の苑池など、きっとその格好の舞台であったことでしょう。
平安京を完成させた嵯峨天皇が、この地を仙洞と定め造営した、嵯峨離宮。
離宮の一部として中国の洞庭湖に模して造られたという、日本最古の人工林泉、大沢池。
数々の歌にも詠まれた名勝であるこの池に映った満月を、
オーナーの嵯峨天皇はもちろん、招かれた文人墨客たちもまた、愛でていたに違いありません。
嵯峨天皇崩御の後、皇女・正子内親王の勅願により離宮は門跡寺院・大覚寺となりましたが、
大沢池は驚くべきことに、平安期の宮廷文化華やかなりし頃の形を現在もほぼ、保持。
中秋の名月の時期になるとここで行なわれる「観月の夕べ」もまた、
二隻一対となる龍頭鷁首をあしらった舟を池に浮かべる、王朝時代の雅なるフォーマットを遵守。
平安のまんまの「観月」を、平成の現在において楽しめるのでございます。
雅なのででございます。それゆえ、雅もひったくれもなくなるほど、人が集まるのでございます。
「観月の夕べ」、外から見てると「舟券」は大体すぐ売り切れ。
「混み過ぎて池に落ちた奴がいる」みたいな話も、ちょくちょく聞くことあります。怖い。
しかし、何度も書いてますが、このサイトのモットーはベタスポットの単独正面突破。
中の様子はどうか、その前に果たして舟には乗れるのか、自分を実験台にして確かめてみました。
「観月の夕べ」は、毎年お月見シーズンに3日間ほど開催されます。
この日は2日目の、いわば中日。ですが日曜なので、相当の混雑してるに違いありません。
きっと舟席券は長蛇の列 or 即刻売り切れだろうと思いながらやってきた、15:40の大覚寺。
じゃあ早速、雅に飢えた人間マンダラ、たっぷり拝見させてもらいましょうか。
と思ってたら、券、あっさりと買えました。10mほどの行列を待ったのみ。
17・18・19・20時台と時間を区切って発券されるんですが、売り切れは19時台だけ。
お値段、1500円。拝観料500円は、込みだったか別だったか、忘れました。とにかく、高価い。
早い人は昼頃から並んでたそうですよ。雅どす・・・。
わたくしが購入した舟席は20時からのもの。まだまだたっぷりと、時間がございます。
なので、優雅にお茶などいただこうと思いまして、大覚寺近くの甘春堂嵯峨野店へお邪魔しました。
勝手に2Fへ上がりこんで和菓子教室用のテーブルに座ったら、体よく追い出されましたどす。
頼んだのは、上生菓子付の抹茶セットどす。菓子はもちろん、一口で丸呑みどす。
しばし愛宕山鉄道の廃線ルートを歩き、幻覚の列車や駅の賑わいに魅入って、暇つぶし。
で、戻ってきたら、ごらんの有様だよ・・・。舟席券、見事にソールドアウト。ちなみに時刻、17:20。
真面目に舟遊びを楽しみたい方は、買いそびれないようご注意下さい。
境内に入ると、龍頭鷁首、既にがっつり稼動中。
まだ月など一切見えない明るさですが、バンバン客をさばいていきます。
この時間だと、さほど人いないんじゃないかと思ったんですが、乗船客は途切れることなし。
月は見えなくても、蓮はよく見える、大沢池。向こうの山も、よく見えます。
御覧の通り、龍頭鷁首船の動力は、人力。当然、音も全然しません。
白昼の下での舟遊びを見物してもしょうがないので、
大覚寺名物である元離宮ならではの伽藍をうろつき、門跡の雅さにふけります。
宸殿では、観月コンサートなるものを開催。嵯峨芸大筝曲部が、何かしらの雅な音を奏でてました。
雅なる伽藍の奥に隠された、真っ赤っ赤な大覚寺の裏・本堂。というのは嘘です。
226で暗殺された元総理・斎藤実が建てた寺の本堂を、移築したもの。理由は知りません。
セレブな法衣をまとった坊さんたちが、今宵の商売繁盛を祈願してる、かどうかも知りません。
日が暮れてきて、いよいよフル回転ぶりが鮮やかになってきた、龍頭舟と鷁首舟の2隻。
大沢池の周囲の混雑ぶりも、なかなかに本格化し始めます。
舟の向こうに見えるのは、嵯峨天皇が空海より送られた詩より命名された茶室・望雲亭。
茶券1枚千円也を購入すると、空と池の月を愛でながら、お茶が頂けます。
18:25、ついに月、登場。
割と雲の多い日でしたが、これ以降、最後までピーカンの如き照りっぷりを見せてくれました。
ちなみに、この背後にある五大堂でも、茶席あり。こちらの茶券は何故か、500円也。
18:30から行なわれた、満月法会。
祭壇に団子や花を供え、月の光明を神格化した「月天」を僧侶が招聘、農作物の豊作を祈願します。
観月の夕べが開催される10日~12日の間、毎日厳修。結構、長いです。
ライトアップされた朱色の心経宝塔、および木、およびその反射影。
宝塔の周辺には模擬店が立ち並び、その前には大量の床机が設置。
メチャクチャ高価い観月弁当をはじめ、各種飲食物や土産物などの販売が行なわれてます。
舟席券が真っ先に売切れとなった19時台へ突入。
客、全然さばけてません。あまりの忙しさで半狂乱となり、毒電波を発する龍頭。
同じく、忙しさで 「何か、ちょっと、しんどい・・・」 という顔をしてる鷁首。
チケット持ってる20時は近づいてますが、残りまくってる行列を見ると、乗れる気がしません。
宸殿の観月コンサートでは、rimaconaというユニットが登場。
かつてミニマルで売ったドイツのテクノレーベル・ミルプラトーから、音源出してるそうです。
興奮する方が若干名いるかも知れませんが、実際の音は良く出来た歌物でございます。
門跡寺院の境内放送で「ミルプラトー」という言葉を聞くのは、シュールな経験ではありましたが。
行列がはけるのを待つうちに、時刻はもう20時半過ぎ。私も、ぼちぼち、乗り込みます。
まだ100人くらい並んでましたが、仕方なく一人で最後尾につき、しばし立ち待ち。
池の周囲では「キャンセル出ました、舟券あります」と、坊さんが叫んでました。
岐阜から車で来たというおっさんが、嫁さんが止めるのも構わず周りに話しかけまくり、
でも何故か私は完全スルーしたりするのを見ながら、遂に舟の中へ。舟、靴を脱いで上がります。
中央には巫女さん(?)が何人か座られ、その周りを客が囲む格好で、着席。
ガイド役の巫女さんリーダー(?)が、案内しながら時折お経を唱えたりしてくれました。
月見舟の風流なる提灯、そして彼方には風流なる中秋の名月。
コンデジISO1600の画質で、とくと御堪能ください。月、明過ぎて電球にしか見えませんが。
舟の中では、お茶とお菓子が頂けます。巫女さん(?)が、目の前に置いてくれます。ウホっ。
中は本当に真っ暗なので、どこの何の菓子かわからんまま一口で丸呑みしたんですが、
写真で見ると鶴屋吉信のうさぎ福餅ですね。もちろんお茶も、男らしくガブ飲みどす。
蓮の周囲を掠めて、ゆったりと水上を滑るように進む舟。
蓮は満開ですが、真っ暗過ぎて肉眼でも詳細はよくわかりません。
写真は、誰かのフラッシュに便乗したら生まれてしまった、雅への執着を視覚化した恐怖写真。
本席茶券販売が20:30で終了した望雲亭の前を通りながら、舟は帰着。
20分ほどの平安ナイトクルージングでございました。何か、すっごく疲れた・・・。
客層は、中高年の夫婦が多い感じでしょうか。
子連れは極めて少ないです。団体も、私が乗った時間はあんまり見なかったような。
カップルはいることはいますが、割と少なし。露骨な観光客も、割と少なかったと思います。
より地元テイスト、それも比較的品のある地元テイストが強い感じでしょうか。
プレッシャー希薄なはずの状況ですが、でも何故か、ひとりだと凄く、浮きます。
人にもよるでしょうが、私はベタな観光地以上のアウェー感を感じました。
特に乗船を並んで待ってる時とか。まあ、浮くこと浮くこと。
舟の隙間を埋めようとした係りの人が「ひとりの人いませんか?」と行列に向かって尋ね、
そのすぐあとに「・・・まあおらんか」と言ってたくらいですからね。
乗船しない場合は池岸からの観月となりますが、こちらは逆に若い子連れとカップルや夫婦ばっかり。
単独は、ほぼカメラマンしかいません。
そんな大覚寺の観月の夕べ。
好きな人と見たら、より中秋の名月なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、中秋の名月です。
【客層】 (客層表記について) カップル:2 女性グループ:若干 男性グループ:若干 混成グループ:0 修学旅行生:0 中高年夫婦:3 中高年女性グループ:1 中高年団体 or グループ:2 単身女性:若干 単身男性:1 |
【ひとりに向いてる度】 ★★ アウェーの面でも金銭的な面でも、 遠目に眺めるだけがいいと思う。 【条件】 |
大覚寺
京都府京都市右京区嵯峨大沢町4
通常拝観 9:00~17:00
観月の夕べ 17:00~21:00
JR嵯峨野線 嵯峨嵐山駅下車 徒歩約17分
嵐電 嵐電嵯峨駅下車 徒歩約20分
京都市バス・京都バス 大覚寺バス停下車 すぐ
旧嵯峨御所 大覚寺 門跡 – 公式