祇園会館へ祇園をどりを観にいってきました。もちろん、ひとりで。

2013年11月1日(金)


祇園会館へ祇園をどりを観にいってきました。もちろん、ひとりで。

祇園会館。ああ、祇園会館。
名画座の割に造りが異常に良く、500席とキャパもデカかった、祇園会館。
そんな良いハコなのに、名画二本立て+入れ替えなしというスタイルを貫いた、祇園会館。
しかし私は正規料金を払う余裕が全然なくて、せいぜい千円の日にしか行けなかった、祇園会館。
その千円の日に観た 『トレインスポッティング』 では、ラリ中の寝糞が顔にへばりつくシーンを、
日本ではおそらく最も巨大なスクリーンで目にすることとなってしまった、祇園会館。
そんな思い出の詰まった祇園会館が、『よしもと祇園花月』 に化けてから、しばらく経ちました。
花道や桟敷席まである劇場のクオリティを考えると、映画より演芸の方がふさわしいのは、当然です。
使えるハコは、有効な形で活用すべき。私もそう思います。でも本当は、ちょっと寂しい。
観光客だらけの八坂神社石段前に建つ立派な劇場で、超ルーズに映画を観るという、不思議な贅沢。
そんな贅沢を味わえなくなったのが、ちょっと寂しいのです。どうでもいい私情ではありますが。
祇園会館の造りがオーバークオリティである理由は、元来ここは映画館ではないから。
京都五花街のひとつ・祇園東の舞踊公演 「祇園をどり」 を行うことこそが、ここの最大の目的です。
元々は甲部と一体の祇園町を形成していたものの、明治14年に京都府の指示で分離し、
戦前は祇園乙部、戦後は祇園東新地から現呼称で愛されている花街・祇園東。
その祇園東の 「祇園をどり」 は、1952年から始まり、唯一秋に公演が行われるをどりです。
祇園花月に化けた現在も伝統は守られ、11月上旬だけは全吉本を会場から一掃。
祇園会館が、本来の目的で本来のスペックを発揮する様を拝めるひと時となるわけであります。
で、そんな祇園をどりに忍び込んでみた、と。しかも、初日に忍び込んでみた、と。
初日にも関わらず、もちろん今回も飛び込み、当日券に賭けてみた、と。
その結果や、いかに。一発勝負の一部始終、お楽しみください。


祇園会館へ向かうべく、13時の四条通を東へ歩いてるの図。
連休の前だからか、客、多し。修学旅行と学生風、多し。チケット買えるか、いきなり不安です。
祇園東の範囲は、東西は花見小路のちょっと東から東大路まで、南北は四条通から新橋通まで。
多分ですけど。この写真だと、電柱を境界線にして、左側のエリアが相当する感じでしょうか。


で、到着した祇園会館の威容を、道の向こう側から眺めるの図。
「よしもと祇園花月」 の看板が出たままですが、祇園をどりの期間中はもちろん全日、休演。
何より建築家・中村順平による巨大タイル壁画が、この劇場本来の 「格」 を、力強く物語っています。
入口には、13時半の初回の客らしき着物姿の女性が、いっぱい。では、飛び込んでみましょう。


チケット、買えました。かなり、いや極めて楽勝で、買えました。
入口前のチケット売り場で、普通の格好した普通の兄ちゃんに 「当日券ありますか」 と訊くと、
「どっちの回で」 と言うので、「2回目で後の方、空いてますか」 と返すと 「いっぱい空いてますよ」 。
かなり、楽勝みたいです。3Fの最前列端が開いてたので、お茶席なしの3500円で、ゲット。


何かあっけないな、と思いながら、改めて祇園会館を近くで眺めるの図。
圓堂政嘉設計の建物からは、1958年という開館年を出すまでもなく、昭和臭が爆裂してます。
中にはうどん屋や喫茶店などテナントも入っていて、4階にはかつてディスコ、現MOJO WESTも。
「ピアノラウンジ・ルンルン」 「Royal Gion」 なんて店も、ルンルンと営業中。ギーク、ギオン。


開演まで時間があるので、メシでも食おうかと祇園東をうろついてみます。
が、街は完全に、飲み屋街です。それも、徹底的に、情け容赦なく、夜型の飲み屋街です。
町家カフェだの、町家イタリアンだの、女子供相手にランチを出すような店は、ほとんどありません。
あっても真剣、いや、まじ☆えんじぇるとか。まじ☆に、いや真剣に、どこでメシ食おうかな・・・。


祇園東のエリアは、元々、近江国膳所藩の京屋敷があった場所。
明治に入りその屋敷が消滅、跡地に娼妓主体で茶屋街が発展したという歴史を持ってるとか。
祇園会館の開館と同年に施行された売防法で、その娼妓が消滅、多くの茶屋はビルに化けた、と。
徳高きこちらのビルには、アレな服屋も、あり。傍には、ランジェリーブティックなんてのも、あり。


歩いてるうちに辿り着いた、観亀稲荷神社。祇園東の火伏の氏神です。
御所の火の番を担う膳所藩は、自家炎上しては洒落にならんと、屋敷へ遠州の火伏神を勧請。
創建時には竹薮だったというこの地を開くと、亀が出てきて歓んだので、歓亀→観亀、と。万歳、と。
「歓喜」 とも読め、艶っぽい邪推をしたくなりますが、とにかく今も現役で信仰を集めてます。


現役で信仰され続けてるのは、火伏せの効力が目に見える形で現れたから。
元治元年&翌年の火災では、一帯を焼いた火がここでピタっと止まったそうです。正に、神通力。
もっとも、なまじ現役で残ったがゆえに、周りを欲望全開のビルで完全包囲されてしまってますが。
そういえば最近、ここで神輿洗の 「練りもの」 の衣装が展示されるなんてことが、ありました。


祇園会・神輿洗の夜、様々な風流を凝らして八坂神社を参ったという、練りもの。
昭和11年、当時乙部と呼ばれてた祇園東は、この練りものを数百人という規模で行ったとか。
絶対的な人数が減り、「をどり」 も少人数の芸舞妓がフル回転という現在では、まるで昔の話です。
が、路地を奥に入ると、往時の香りが天然で残ってるような風景も、少しだけ見かけたりします。


と、街歩きもいいですが、話はメシですよ、メシ。欲望を刺激され、腹、減ったぜ。
「常盤」 が開いてましたが、どうせなら全て祇園会館で済まそうと、京めんへ入ってみます。
劇場入口横、テナントで入ってるうどん屋。前は何度も通ってますが、中へ入ったことはありません。
写真撮ってると、何を勘違いしたのか外人が釣られて、一緒に撮影開始。何か、すまん。


頼んだのは、かけうどんと木の葉丼のセット、1180円也。高価い。
壁に貼られた芸人たちのサインを眺めながら食ったその味は、思ってたより悪くありません。
というか、はっきり言って、美味い。鰹風味が利きまくった出汁と、プリっとした麺。普通に、美味い。
濃い目な味付けの丼も、欲望を刺激された男には嬉しい仕様。だけどやっぱり、高価い。


劇場の受付が始まるのは、15時。まだまだ時間、あります。
なのでコーヒーでも飲もうぜと、自分で自分を誘い、やはりテナントのコロラド・ぎおん西村店へ。
ドトールの元祖でありながら、妙に土着化の進んだ店が多いコロラド。ここも、そんな感じの店です。
北側の通に面してるためか、横でジェラードを売ってるにも関わらず、観光客の姿はまばら。


ナチュラルレトロな風味の利いた店内は、客も、店員も、超ネイティブ。
着物姿の 「お姉さん」 もいてはって、「スプーンの上に氷一つ乗せて持ってきて」 と頼んだり、
残りを包んでもらう際 「ラップでいいどすて」 「いやいや」 と、謙譲ループへ入ったりしてはりました。
コーヒーは、500円。高価い。でも、店のお母さんがお代わりを入れてくれました。おおきに。


そうこうするうち、時間は15時半。いよいよ劇場へ入ります。
入り口でチケットをもぎってもらい、見慣れた場所に見慣れないをどりデコが施された館内へ。
やたら沢山いる案内の妙齢女性に連れられ、開演30分前ながらかなりガラガラな3階席に、着席。
撮れるうちに記念写真を、パチリ。広いハコなので、特に見づらい席はない感じでしょうか。


最後部、映写室の前からあたりから見た、劇場全景。
右の提灯並んでる下のとこが、桟敷席。左も桟敷席ですが、をどりの際はお囃子ボックス化。
こうして見ると、やはりこの館は 「をどり」 のための館、これが本来の姿なんだと実感させられます。
と同時に、緞帳右下の 「ほんだし」 が、どうにもこうにも吉本新喜劇的だったりもしますが。


ロビーでは、井筒かどっかの土産物、舞妓グッズ各種、パンフなどを販売中。
で、その様を、展示されてる映写機ナメで眺めるの図。映写機は、映画館時代からあったもの。
現役の映写システム、まだ残ってるんでしょうか。残ってたら、映画上映、復活したりしないかなあ。
3年で潰れた京橋花月みたいに、祇園花月もすぐ潰れて、映画上映、復活したりしないかなあ。


で、パンフ500円也を買ったの図。借景は、茶席の入口。
茶席、実に賑わってます。というか、外から見る限り、部屋が過激に狭いだけな気もしますが。
パンフの内容は、公演内容の解説と芸舞妓さんたちの写真、そしてスポンサー広告のオンパレード。
「広告かい」 と思うなかれ。最早ここでしか拝めない、昭和センスの動態保存。見ものです。


そんな広告の中にランジェリーブティックがあるのに驚いてると、
時間は16時となり、日本語と英語のアナウンスが入り、祇園をどり、遂に開演でございます。
入りは結局、1&2階がほぼ満員。3階は、ガラガラ。人間嫌いな単独の方、3階前方、お奨めです。
あ、写真撮影はもちろん全面的に禁止。しばらく、漆黒の闇と文字のみでお楽しみください。


2013年度・第56回祇園をどりのお題は、『祇園社季詣』 。
読みは、「ぎおんやしろきごとのさんけい」 。「真剣」 と書いて 「まじ☆」 と読む感じです。嘘です。
祇園花街の起源である 「祇園さん」 こと八坂神社の年中行事を、全七景のをどりで綴るというもの。
第一景は、初能 『翁』 にちなんだ 『振袖三番叟』 。新年のめでたさを、芸妓3人が舞います。


続いて第二景の 『節分祭』 では、可愛らしい舞妓さんも3人登場。
『祇園笑者』 でゲストが出てくる花道から現れた芸妓さんと共に、豆を客席へ投げまくり。
第三幕は一気に飛んで、夏の 『祇園会』 。祇園囃子のSEに乗って登場する芸妓さんの、ソロです。
「乱る思いに来ぬチキチン」 と、夏の夜に燃える情念を切々と舞ったのち、何とセリ下げで退場。


花傘巡行など各種奉納で御馴染みの第四景 『小町踊り』 を挟み、
第五景は八坂神社末社・美御前社の美容水をめぐって三角関係が縺れる長唄 『八坂情話』 。
おかしな顔の女が男を取られ、取った女と美御前社の前で乱闘してると、美容水を頭からかぶり、
かぶると美人となって男が戻り、取った女は美容水飲み過ぎて腹壊しという、楽しいお話。


大晦日のおけら詣りををどり化した第六景 『おけら詣り』 で、
おけら火回し&扇子回しを披露したのち、いよいよフィナーレの第七景 『祇園東小唄』 へ。
舞妓さん芸妓さんが紅葉でデコられた舞台へ勢ぞろいして、「祇園東の火がともる」 と、総をどり。
で、皆さんが深々とおじぎをして、拍手が続く中、幕。トータル約1時間のをどりでございました。


途中、キコキコ言ってる音が聞こえたけど、あれはセリの音だったんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら、帰ります。沢山の人が帰るので、大混雑の中、帰ります。
映画を観に来てた頃には見たことのない、華やかな光景です。嬉しくもあり、寂しくもある光景です。
やっぱり、平日だけでも映画上映、復活させませんか。駄目ですか。ああ、そうですか。

客層は、他のをどりと同じく、中高年が主体です。
特に地元丸出しというわけでもなく、観光丸出しというわけでもないので、
地元系と観光系の比率はよくわかりませんが、おそらく五分五分の烏合という感じでしょうか。
若者は、基本、いません。たまにカップルと、あとは若い単独の物好き男がいるくらい。
劇場前でウロウロしてるようなな喧しい子らは、中には全く入って来ません。
混成グループの若者は、全て、外人。あくびしたりしながらも、一応は大人しく見てましたよ。
単独は、若い男と、あとは中年がチラホラいる程度。女は、妙齢系を含め、ほぼ皆無。
服装は、女性の和装率は高いですが、他のをどりほどではありません。
中高年は、ごく普通のよそ行き程度。私を含め、ラフな格好した客も非常に多いです。
値段はお高めですが、単独者にとってはアウェー感もプレッシャーもなく、
かなり気楽に足を運べるをどりではないでしょうか。

そんな祇園会館の、祇園をどり。
好きな人と観たら、よりをどりなんでしょう。
でも、ひとりで観ても、をどりです。

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:1
子供:0
中高年夫婦:3
中高年女性グループ:2
中高年団体 or グループ:4
単身女性:0
単身男性:若干

【ひとりに向いてる度】
★★★
観光的にもネイティブ的にも、アウェー感は特にない。
また、色気・人圧・格式などのプレッシャーも、さほど感じない。
といって、特に居心地がいいわけでもないが、
をどりに興味があれば、ひとりでもごく普通に楽しめるだろう。
祇園東の街歩きと共に楽しむのが、結構、おすすめ。

【条件】
平日金曜 13:00~17:00


祇園をどり
毎年11月1日~11月10日
祇園会館にて開催

祇園をどり – 祇園東歌舞会公式

祇園をどり – Wikipedia
 
 
祇園会館
京都市東山区祇園町北側323
開館時間は公演による

京都市バス 祇園下車すぐ
京阪電車 祇園四条駅下車 徒歩10分
阪急電車 河原町駅下車 徒歩13分

祇園会館 – 公式

祇園会館 – Wikipedia