五山送り火の船形万燈籠を拝みに行って来ました。もちろん、ひとりで。

2017年8月16日(水)


五山送り火の船形万燈籠を拝みに行って来ました。もちろん、ひとりで。

『京都人は日本一薄情か 落第小僧の京都案内 (倉部きよたか・著) 』 という、
死ぬほどしょうもない書名の割に案外面白い本では、 「賀茂人」 なる概念が提示されてます。
賀茂族」 ではなく、 「賀茂人」 。 「上京人」 「下京人」 と共に 「三京人」 を構成する、 「賀茂人」 。
上賀茂から西賀茂にかけての洛北・賀茂エリアに住むネイティブな人を、そう呼ぶというわけですね。
この賀茂の地はそもそも、上賀茂神社神領として平安遷都の以前から賀茂族が統べていた地。
中世以降は色々ごちゃごちゃしますが、とにかく上京や下京とは異なる歴史的経緯を持つエリアです。
で、倉部氏が同書で言うには、こうした経緯が 「賀茂人」 の気風を独特なものにしてるんだとか。
「適当な思いつき」 と、思われるかも知れません。が、私には、結構当たってる所もあると思えます。
賀茂、特に御薗橋以西の西賀茂の雰囲気は、確かに京都のどのエリアとも違い、何か独特です。
長閑な田畑が残る辺と、ゆえに開発が進んだ宅地の景観が入り混じる辺は、いかにも郊外的ですが、
そこに、他の京郊にはない雰囲気、何かしらどよ~んとした雰囲気が、立ち込めてるというか。
京郊にして元神領の八幡に住む私は、その辺に、強い親近感と違和感を同時に感じたりするのです。
で、船形を拝みに行ったこの日の西賀茂もやはり、何とも独特な雰囲気が立ち込めてたのでした。
自転車珍走などの阿呆な手段で幾度も五山のコンプリートへ挑むも、それらの全てが失敗に終わり
猛省の後に 「5年かけて、1年に一山ずつ見る」 と発動された、当サイトの五山送り火5ヵ年計画
初年度の2015年はまず本丸である大文字を、2016年は超豪雨の中で妙法を拝んできたわけですが、
3年目の今回訪れたのは、西賀茂・西方寺の檀家さんが点火を担うという、船形万燈籠であります。
西方寺を開いた慈覚大師・円仁が、留学先・唐からの帰国時に阿弥陀如来を召喚した船を表すとも、
精霊 aka おしょらいさんが現世からあの世へ帰る際に乗る燈籠流しの舟を表すともされる、船形。
西方寺での六斎念仏と、そして 「賀茂人」 が愛するサカイの冷麺と共に拝んだその送り火は、
やはり西賀茂独特の雰囲気と温度感の中で、独特な輝きを放ってたのでした。


送り火当日の19時頃、北大路駅から加茂川を歩いて、西賀茂の入口とも言える御薗橋へ。
西賀茂、バスしか公共交通機関がありません。が、私はバスが好きではありません。ので、川歩き。
御薗橋、近付くまでは送り火見物の賑わいを大して感じませんが、到着すると流石に見物客が増加。
警備もまた、増加。とはいえ、大文字のちゃらい感じは希薄。歩いてるのは、家族連れが大半です。


橋を渡り、御薗橋商店街へ。商店街は、割と賑やか。ただ、単に買い物する人で、賑やか。
送り火ゆえの賑やかさではない、という。道端で点火を待つ人は、19時半の時点では見かけません。
どっかに穴場でもあり、そこにでも溜まってるのかなと思い、周囲を徘徊すると、やおいちゃんに遭遇。
道陰へ隠れるようにして、やおいちゃん、いました。昔より恐い顔に化けてて、少し声を上げました。


というか、そもそもこの辺、穴場でなくても簡単に火が見えます。昼なら、火床さえ見えますし。
ので、ラリッた鼻デカ野郎を置き去りにして、点火までの時間に飯を食うべく、 「みその橋サカイ」 へ。
独特の冷麺で人気が高い 「サカイ」 の、支店です。ので、頼んだのは無論、焼豚冷麺。そして、焼飯。
店内は、盛況。送り火に合わせて食う家族連れが多く、20時が迫ると勘定がエンドレス化してました。


で、 「サカイ」 の冷麺。麺は普通かつ独特な麺ですが、スープは似たタイプがない独特なもの。
中華とも洋食とも和食とも違って、独特。説明に困る位、独特。で、美味い。で、中毒性も高いという。
焼飯は、ごく普通の街中華仕様。冷麺スープと交互に食うことで、至福のループをしばし味わいます。
何故か松任谷由実が流れ続ける中で至福してたら、時間が来たので、私も勘定。さあ、送り火です。


で、サカイを出たら、御薗橋商店街の一筋北へ。この辺、船形の船山がよく見えるんですよ。
ほぼ丸見えになる西賀茂児童公園では、子供達や家族連れが集結中。で、火、着き始めました。


で、フライング気味に生成され、現場では明るく見える、送り火。


山が近い為か、望遠だと点火作業してる人まで見える、送り火。


で、定刻のジャスト20:10くらいに、船形万燈籠、めでたく完成。


で、視点を変えてみるべく、山肌の様子も、何となく望遠で拝見。


更に視点を変えるべく移動し、神光院前バス停で見た、送り火。


更に西へ移動して、山へ近付き、またまた望遠で見た、送り火。


更に更に西へ移動してたら、火、消え始めました。終了時間です。お疲れ様でございました。
何処へ行っても、基本的には近所の人がのんびり眺めてる、実にいい雰囲気の火でありました。


というわけで、すっかり火が消えた20:30、送り火の点火を担った西方寺へと向かいます。
慰労に行くのでは、ありません。知り合い、いないし。六斎を観に行くんですよ。あるんですよ、六斎。
西方寺が建つのは、火が見える辺より、南。送り火的には神光院がジャストなので、間違えそうです。
送り火の灯火管制の為か、あるいは単に普段からなのか、とにかくやたら暗い中を歩くこと、しばし。


で、西方寺へ到着。第3代天台座主の慈覚大師・円仁により建立されたとされる寺であります。
しかし、中興したのは、六斎念仏を広めた道空。ので、六斎を統括した干菜寺の末寺になったとか。
西方寺の六斎念仏は、船形を点火した若者を中心として、送り火に続いて寺境内で執行されるもの。
境内、客は30~40人程度。2~3割がカメで、他は全て地元の人達。実に、念仏らしい雰囲気です。


で、21時頃にメンバーが登場して、一山打ち = フルセットらしき 「いっさん」 を演奏開始。
そう、演奏。ここの六斎は、芸能六斎ではなく、太鼓と鉦のみで構成される念仏六斎。なので、演奏。
干菜寺が統括してたのは、念仏六斎を行う寺。そこの末寺だったというから、当然といえば当然です。
念仏六斎、上鳥羽などと同様、地味といえば、地味。ただこちらは、動きが割と大きめに見えました。


太鼓を担う 「若中」 なる人達は、本堂を背にして馬蹄形に並ぶ、不思議なフォーメーション。
「若中」 の人達は、船形の点火作業も担ってるとか。望遠で見えた人影が、そうだったんでしょうか。
鉦を受け持つのは、 「中老」 だそうです。名前は 「中老」 でも、鉦の連打音は、中々に鋭いものです。
あまりに音が鋭い為か、あるいは単に境内が暑過ぎた為か、何故かセミが樹から落ちてきました。


曲、ソロをまわしたりと仕掛けが多かったりしますが、でも演芸的というよりは、やはり音楽的。
日本の言語観+日本のリズム観+日本の信仰観が圧縮された音響とでもいうか。ある意味、斬新。
とか思ってる内に、六斎は終了。聴かせていただき、ありがとうございました。で、聴いたら、帰ります。
西方寺、北大路魯山人の墓とかもあるらしいですが、別に知り合いでもありませんので、退散です。


バスは嫌いだから、乗りたくない。とか思いながらも、疲れた足は自ずとバス停へ向かいます。
送り火を見かけた神光院前バス停で、30分待ちも1時間待ちも辞さずの覚悟の下、しばしバス待ち。
すると、バス、すぐ来ました。時刻表をよく見ると、本数は多し。鉄道がなくても、割と便利なんですね。
近くて遠い、遠くて近い、そんな賀茂の残り香を感じながら、帰りました。5ヵ年計画、ではまた来年。

船形万燈籠、見物客は基本、地元の家族連れのみと言っていい感じです。
もちろん、他の客層もチラホラとはいますが、完全に家族連れのボリュームに埋もれてます。
家族連れのテイストは、ネイティブ系。というか、現場にいる大半の人のテイストが、ネイティブ系。
それも、コッテコテとまでは言いませんが、左京区とは比較にならない程度には、ネイティブ系。
皆さん、濃厚な生活感と低温気味な信仰感の中で、のんびりと送り火を眺めてました。
観光客は、ほぼゼロ。単独はカメくらいですが、大文字よりは数は少なめです。

そんな五山送り火の、船形万燈籠。
好きな人と拝めば、よりおしょらいさんなんでしょう。
でも、ひとりで拝んでも、おしょらいさんです。

五山送り火の大文字を拝みに行って来ました。もちろん、ひとりで。
五山送り火の妙法を拝みに行って来ました。もちろん、ひとりで。

【客層】 (客層表記について)
カップル:微
女性グループ:微
男性グループ:微
混成グループ:微
子供:1
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:7
単身女性:超微
単身男性:若干

【ひとりに向いてる度】
★★★
本来の送り火と思える雰囲気の送り火が見られる。
が、ネイティブテイストが強い分、他所者は多分、普通に浮く。
基本的に住宅地である為、田舎のアウェー感の方は希薄だが、
住宅地であるがゆえに、不審者認定をされないよう、注意。

【条件】
平日水曜 19:00~21:00


  
五山送り火
毎年8月16日 開催

船形万燈籠
8月16日 20時10分より点火
西賀茂をうろついてれば、きっと見える
 
西方寺
京都市北区西賀茂鎮守菴町50
拝観自由
 

五山送り火 – 京都五山送り火連合会

五山送り火 – 京都市観光協会

五山送り火 – Wikipedia

西方寺 – 京都風光